第6回 大阪講演会
開催月日:2013年12月07日(土)
開催場所:AP梅田大阪

大阪駅の玄関に立って、改めて周囲を眺めてみたところ、高く大きいビルが立ち並び見上げる首が痛くなった。大阪が関西一のビジネスと商業の都であることを実感した。

講演会の当日は、週間天気予報では雨となっていたが、当日は曇り空で雨はなく、暖かい一日であった。このためか、皆さんの出足は早く講演開始10分前には会場がほぼうまりました。今回は、第2部で望月みや子氏から、「内臓トレーニングを実践してみると、血流の滞っているところは生体電流の流れも滞っている」という報告があった。今まであまり生体電流についてお話はしていなかったので、長くなりますが紹介してみたいと思います。

●生体電流の発見とその機能
みなさんは、人間の体の中に電気が流れており、その電気のことを生体電流と呼んでいることはご存知のことと思います。体内に電気が流れている。どこで電気は作られているのだろう。生体電流に関する医学界の最初の疑問です。この電気を研究して行くうちに、この生体電流を人工的に作り出そうとする試みがなされるようになりました。以来、多くの学者が体内を流れている電流と同じ電流を作ろうと工夫を重ねました。それらの電流を総称して低周波と呼ふようになりました。代表的なもとといえば、18世紀初頭、直流を律動的に断続し波形を矩形にした低周波*1が開発されました。これは開発者の名前をとってガルバーニ電流と呼ばれ、かえるの筋肉にこの電流を通したところ筋肉の収縮が起こることが分かりました。そこでフランスのステファン・ルディックが始めて電気を医学に導入しました。この電気を頭部に通じたところ一種の催眠作用があることが分かりました。更にいろいろ試みると、諸種の麻痺した筋肉や神経痛の治療に効果がある*2こと、末梢神経麻痺の治療に効果があることも分かってきました。

●電気生理学の成立
19世紀を通じて、人体に低周波を通すとどんな反応が起きるかという研究が電気生理学と命名され、さまざまな研究がされるようになりました。この結果、人体のさまざまな活動が電気によるもので、心電図、筋電図、脳波などによって生体電流を目で見ることができるようになりました。現在の臨床検査の基礎が出来上がったのです。

●日本における電気生理学の成立とその成果
日本では、戦後まもなく電気治療の研究が始まり、昭和24年、大阪大学の五百住・武越教授が、直流の電気による低周直角脈発生装置を考案し、麻痺には陽極がよく効き、神経痛には陰極が有効であることを発見し、それまでヨーロッパで常識とされていた電気緊張説を覆しました。
当時の日本には、脳や神経系を直接治療する方法がなかったこともあり、国立大学を中心に電気治療の研究が一大ブームとなりました。昭和27年には東北大学総長の本川弘一医学博士を中心に「電気生理学」学会が設立されました。因みに、本川先生は作家北杜夫さんの恩師です。更に昭和29年には文部省が電気治療の科学試験研究費共同研究班を結成し、昭和32年には日本低周波医学会が結成されました。同じ年に、東京大学医学部教授の田坂定孝医学博士が著わした「低周波脊髄・頭部通電療法」(中外醫學社)は、当時の日本の電気生理学のレベルを示す貴重な資料となっています。著書で、低周波を脊髄に通電することにより、脳梗塞患者の70%以上に好結果が出たことを発表しています。先生は、低周波を脳や神経だけでなく臓器にいたるまで全身に通電してその効果を検証しています。腎臓にも低周波をあてたところ、低周波通電は、中枢神経系に対する好影響とともに腎血行にたいする好結果を招来すると考えられる*3という結論を出しています。

●日本における電気治療の盛衰
これらの研究の成果をもとに、全国の大学病院や国立病院が電気治療を始めたところ、患者さんが列を成したそうです。しかし、電気治療機器が大変高価であったこと、治療時間が長時間にわたること、医療費が安く採算が合わないことなどの悪条件が重なり、電気治療は昭和45年を以って大学病院から消えてしまいました。今は、電気による直接治療はほとんど影を潜め、治療院や整形外科において、痛みの麻痺のために利用され、補助的な治療方法となってしまいました。
しかし、電気生理学の伝統は、国立自然科学研究機構生理学研究所のサルを使って脊髄損傷からの機能回復研究や、東北大学医学部障害科学専攻の脳や神経機能の解明のための基礎研究の中で生かされています。また近年、統合医療の見地から電気治療の再評価もなされてきています。

●ふくらはぎを低周波で刺激する発想はガルバーニさんからいただきました
お医者さんたちは皆さん「血流は大切だ」、「血流がよければ健康でいられる」とおっしゃいます。また、血流改善には、第2の心臓といわれるふくらはぎを刺激することが大切だといいウォーキングを勧めます。しかし、ウォーキングもなかなか大変です。効果的な血流改善を考えていたとき、カルバーニの、「低周波で筋肉を刺激すると収縮する」という情報に行き当たりました。低周波でふくらはぎに通電すればふくらはぎの筋肉は収縮し、下半身の血流は活発になります。カルバーニの情報が、ふくらはぎと低周波を結び付けてくれたのです。幸いにして、田坂先生のころの低周波と違って、現在の低周波は交流が使われているため、皮膚を損傷することなく長時間通電することができます。しかも、30分より60分、通電時間を長くすればするほど下半身の血流を活性化することができます。
また、ウォーキングは直立歩行ですから血流改善は下半身だけですが、内臓トレーニングでは寝て行います。頭から足の爪先まで水平にしてふくらはぎを刺激しますから、血流改善は下半身だけでなく上半身にも及び、脳の血流も活性化することができます。

●田坂先生のころより自律神経のバランスを整えるのは簡単になりました
自律神経のバランスをとるには、脳も神経もすべて電気活動であることから、まず生体電流の流れをスムーズにする必要があります。ところが、病気の患部は電気の流れが弱くなっておりスムーズに流れません。そこで、田坂先生は患部に、より強い低周波を流したところ患部の改善が図られたといいます。つまり、患部の障害の程度に応じて低周波をながせば、生体電流の流れをスムーズにすることができるといえます。
健康教室には、ふくらはぎから足の指までむくんでいる人がおいでになります。このような人は、健康な人なら飛び上がるくらい強い電流を流さないと反応を示しません。低周波でふくらはぎを根気よく刺激して行くと、健康な人の心地よい強さの電流を感じ取ることができるようになります。生体電流が正常に流れるようになったからです。もうこの頃には紫色だった皮膚は肌色に戻り、むくみも取れてスッキリした足になっています。

●田坂先生の通電法を守って脊髄通電を行っています
自律神経は脊髄の中を通って尾てい骨近くまで伸びています。田坂先生は、脊髄に低周波を流して、交感神経と副交感神経の働きのバランスをとることを考えました。内臓トレーニングでも頚椎から仙骨に低周波を流し自律神経のバランスをとることにしています。
なお、田坂先生は1回の刺激は最低45分以上行わないと効果が出ないといっており、内臓トレーニングでは1回の通電を60分行うことを提案しています。

●腎臓病の人は共通して循環器系統の内臓が弱っている
腎臓病の人たちに低周波を流すことによって面白いことを発見しました。腎臓病患者さんは共通して循環器系統の臓器で電流が滞る傾向があります。言い換えると、循環器系統の臓器で生体電流の流れが弱くなっていることを意味します。腎臓病ですから泌尿器系の臓器の生体電流が弱っていると思っていたのですが循環器系統での滞りの方が多いのです。
私たちは、腎臓病は循環器系統の臓器の障害により発症し、結果として腎臓が悪くなるのではないかと考えております。もっともこれは内臓トレーニング実践者の結果からの見解でエビデンスはありません。

●内臓トレーニングは電気生理学の成果を踏まえた健康法です
内臓トレーニングを通じて多くの腎臓病患者さんと付き合う中で、病気の患部は、血流も悪く、生体電気の流れも悪いことが分かりました。そして、低周波を適切に流すことにより、血管も神経も健康になることも分かりました。
私たちは、内臓トレーニングを考案するに当たって、ほんの少し電気生理学の知識を活用させていただきました。しかし、内臓トレーニングの実践を通して、電気生理学の大きな成果を一つひとつ確認させてもらっています。碩学の足跡をたどることは楽しいことですね。

注:下線部の注1.2.3は、田坂定孝著「低周波脊髄・頭部通電療法」より引用

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